たまに更新します。

Zero Audio CARBO i のレビュー

f:id:diyeast:20190216151055j:plain
Zero Audio CARBO i

Zero Audio CARBO i はここ最近聞いた or 買ったイヤホンの中で最も良かったものの1つであるからレビューしておく。何ヶ月か前に luna-luna さんが絶賛しているのを見て試聴もせずに買ったものである。

まずこのイヤホン、付属のイヤーピースで聞くと確かにフラットでいいのだが、ややストレスの溜まる音がする。また低音も少なめである。それを改善しようと付属イヤーピースの裏側にウレタンの輪っかを入れるという改造(というほどでもないが)を施したところ、余計に高音が出る感じになっていまいちだった。何だかんだこの状態で3ヶ月くらい使ったり使わなかったりした。

つい最近になって、全くの思いつきだったのだが、 Etymotic Research の ER4 シリーズのようにトリプルフランジのイヤーピースを付けてみたところ「ストレスの溜まる音」が改善し、低音も十分出るようになった。思うにこの「ストレスの溜まる音」というのは音の一部が鼓膜と反対側の方向に抜けるか何かして起きているのだと思う。つまり遮音性を上げれば改善するし、低音の減少も同じ原理で起こるので片方が改善されればもう一方も改善されるというわけである。過去には改善策としてウレタンを使ってうまくいく場合が多かったが、 Carbo i については今まで考えもしなかったトリプルフランジが最適だったわけである。

トリプルフランジを前提としたレビューは以下のとおり。どの帯域も綺麗に出ており、また細かい音が潰れることもなく、音の分離も素晴らしい。こんな強烈に高性能なドライバーをよく作ったものだなと痛く感心させられる。オールジャンルだいたい何でも鳴らせて、珍しいことではあるがポップスとクラシックの両方に向いている。この点から考えても並のイヤホンでないとわかる。定位感も完璧である。クール系かウォーム系かでいえばクール系である。元々ドライバーが小口径なこともあって、ハウジング共振による性能低下は起こらない。(つまり質の高い低音が出る)

ただし、音源をそのまま再生するタイプのイヤホンであるから、録音年代が古いなどの理由で音が荒れているとそのまま荒れた音が再生される。この点は音源の荒れを吸収してしまう Final E3000 などとは正反対の特徴である。また Knowles ED-29689 (ER4Pなどに採用)のように倍音を増強する効果もない。あくまで音源を忠実に再現するタイプの製品である。*1

付属のイヤーピースでは「まあ性能は高いがこんなものか」という風であったが、トリプルフランジに替えると生涯使えそうなくらいの素晴らしい音になる。どうせならトリプルフランジを標準のイヤーピースにしておいてくれればもっと早くこのイヤホンの素晴らしさに気づけたのだが、残念でならない。また、このような頭一つ抜けた性能のイヤホンが( luna-luna さんの周辺を除いて)あまり話題になっていないのも気になるところだ。やはり標準のイヤーピースではドライバーの性能を引き出せないのではないか。

私が使っているイヤーピースは上記のもののLサイズで、だいぶ前に買ったあと放置状態だったものだ。普段Lサイズを使うことはない程度の耳の大きさだが、これはたまたまLサイズでちょうどよかった。中国製ノーブランドであり、ゴムはペラペラで決して品質の高いものではないので、今からトリプルフランジのイヤーピースを買う人はもう少しマシなものを買った方がいいだろう。

なお、 Carbo i のステムサイズはコンプライの500なので、 Etymotic Research のトリプルフランジは装着不可能である。また、耳の都合上トリプルフランジが使えない人はダブルフランジやコンプライを使うといい音になるかもしれないが、試していないのでどうとも言えない。

他機種との比較

Final E3000と比べた場合、Carbo iの方が優秀に思える。というのも、E3000についている「目の細かいフィルタ」がどうも音の邪魔をしているように思えてならない。E3000に関しては付属イヤーピースの裏側にウレタンの輪っかを入れる方法がうまくいった。 "モルデックス イヤーピース 自作" などで検索するとやり方が出てくる。(ウレタンの輪っかないしコンプライの類をイヤーピースとして直接つけると余計に高音が減衰するのでよくない)

ただ、そのように多少E3000を改善しても Carbo i + トリプルフランジの方がいい音がしている。E3000に不満な場合、フィルタを引っ剥がすのが一番いいような気がするがどうにも躊躇われるので行っていない。出音からして、 Carbo i にはこのようなキツイフィルタはないと思われる。

ER4シリーズは持っていないので比較はしないが、ER4ユーザーには一度Carbo iを試してほしいし、きっと気に入るのではないか。とはいえ、トリプルフランジのイヤーピースでなければ試聴しても本来の性能がわからないように思われる。eイヤホンだとゆっくり試聴できるスペースがあるうえ「イヤーピースの試聴」もできたはずなので、店員に頼めば Carbo i + 店内のトリプルフランジの組み合わせで試聴できるかもしれない。(保証はしない)

一応、 KZ ATR とも比較しておく。ATRはドライバーの大きさに対してハウジングがショボい為、音量を上げると共振だか何だかの原因で音が悪化するが、Carbo iにはそういう現象はない。またATRは中華イヤホンの中でも典型的なウォーム系低音多めサウンドであるが、Carbo iはクール系である。音の分離や何やらは相当な差があり、KZ系のダイナミックドライバーがここに追いつくのは相当先になるのではないか。*2

Carbo iの弱点

Shure掛けはやってできなくはないが難しい。公式に推奨されている装着法以外は無理かと思う。また、その装着法のせいでケーブルのタッチノイズが非常に大きい。私自身は分岐部分に後からクリップを追加して使っている。普段はクリップを使うことなどないのだが、Carbo iに関してはクリップなしでは運用が難しい。クリップを使えばタッチノイズはなくなる。

クリップはワニ口クリップの持つ側に開いている穴に針金を通し、ハンダ付けで固定し、各部に熱収縮チューブを通したものである。あとは針金を折り曲げれば Carbo i の平型ケーブルに装着可能となる。ワニ口クリップは100円ショップで売られているメモクリップでも代用可能かと思う。(というか、メモクリップとワニ口クリップは同じ商品に見える)

他のイヤホンについて

冒頭に「最も良かったものの1つ」と書いたが、他にもよかったものがあったので機種名だけ挙げておく。以下はすべて試聴だけであり、所有していない。

  • OSTRY KC06
  • 茶楽音人 Co-donguri Brass
  • Sony MDR-EX800ST
  • Acoustune HS15 シリーズの全ての機種(特徴的な音を出す)

近況

少し前にハイブリッドのカスタムIEMを自作したのだが、組み終わったあとDDが壊れていることに気づいた。ニッパーでバラしたところ、 ED-29689 を2つとも破壊してしまった。そもそも取り出しにくい位置に ED-29689 を置いたのがよくなかった。DDの破損さえなければいい結果になっただけに無念である。

追記

拙文取り上げてくださってありがとうございました。実のところ私は「最近のイヤホン」については不案内でして、当方が持っておる低価格帯のイヤホンは大部分が luna-luna さんのレビューに影響を受けて買ったものであります。この機会に厚く御礼申し上げます。

ついで、といってはなんですが、先方の記事のうちよく記憶に残っているものを2つほど載せておきますので、未読の方はぜひ。(いずれアンプも製作したいとは思うのだけれど、いつになることやら)

*1:本当に倍音が増えているのかどうかは保証しかねるが、 ED-29689 には楽器や人の声が「よりよい音になる」効果があるのだ。私が聞いた限りでは倍音が増えているように思われるということである。

*2:追記: 「相当先」というのはそもそも技術以前に音の方向性が違うということも加味しています。

DIYEASTではオーディオメーカー・販売会社各社様からのオーディオ機器のレビュー依頼(返却のない無償の商品提供を伴うもの)を受け付けております。もちろん商品提供を受けたことは明示しますし、絶賛するとも限りませんし、イヤホンの場合はレビュー後に分解してカスタムIEM化するかもしれませんが、「べつに気にしないよ」という企業様はTwitterにてご連絡いただけると幸いです。@diyeast