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SoundPEATS B30 によるCIEM製作

材料など

  • SoundPEATS B30から取り出したダイナミックドライバー(以下DD)
  • シェルはエポック光硬化樹脂
  • 色はガイアカラー純色シリーズを混ぜたもの。小さい瓶に光硬化樹脂をとって、その上から使い捨てのスポイトで塗料を入れて直接混ぜる。
    • ガイアカラーは顔料が多いらしいので、半透明な色付きシェルを作る場合、Mr.カラーなどのCMY塗料の方がいいかもしれない。模型の場合、顔料が多い方が隠蔽力が高く有利だというが、半透明カラーシェル製作においては微妙だ。また顔料の方が混ざりにくいという問題もある。
    • 模型用品はヨドバシカメラの通販(送料無料)で買うのが良い。Amazonだと微妙だ。
  • リッツ線はモガミ2706をオヤイデ電気の通販で買った。
    • モガミ2706は極細でありながらニッパーで容易に被膜が剥けるうえ、ハンダものりやすく作業性がよい。逆にイヤホンから取り出した適当なリッツ線の類はハンダが乗りにくくトラブルの原因になるのでここは金を出して買った方がよい。
    • ついでに「細い電線」(適当なスピーカーケーブル等)も買っておくと、例えばイヤホンケーブルや延長ケーブルの製作に役立つ。なにせオヤイデ電気は送料が600円なので、多めに買った方がいいと……。(ステレオミニプラグはAliExpressがオススメ)
  • ケーブルは手持ちの適当なMMCX。いずれ自作する。
  • ネクターはMMCXでAmazonの中華発送のもの。オスピンでケーブル製作も出来ちゃう。 Amazon.co.jp: GRALARA MMCX コネクタ

オリジナルのSoundPEATS B30のレビュー

悪くはないが、高音がやや少なめでかすれた感じがある。ハウジングの外側は金属だが薄くて軽い。内側は柔らかめのプラスチックでショボいので折角のドライバーの性能が活かしきれていない。オリジナルの状態で比較するならば KZ ZS5 の方が明らかに高性能。

(たいていのイヤホンのハウジングはショボいので悲しいところである。ユニバーサルの場合、重量を増すと耳から脱落するなどの問題が起こるのでむやみに重くするわけにもいかないが、せめてB30のような柔らかいプラスチックではなく、硬いプラスチックを採用してくれればと思う)

イヤーフィンを外すとシュアがけ可能。ドライバーから出る低音はそこそこ多い。

まあ今これを買うなら1050円でハイブリッドのAIKAQI A04とか、2000円かそこらのKZ ZSNとか、「まともな帯域バランス」という噂のRevonext RX8とか、今なら20ドルで買えちゃうKZ ZS5とかがいいんじゃないでしょうか。あとTFZ T2Galaxyをマスドロップで買うと安いらしいが、それを買うならFinal E3000やintime 碧 LightやRHA S500が選択肢に入る。そういえばKZ ZS7が発売されたそう。個人的にはRevonext QT3や品質が改善したらしいTRN V10(あるいはV80)なんかも気になるところだが、"3ドラ以上ハイブリッド"の定番であるZS5が20ドルということを考えるとどうにもなと。(前述のイヤホンは定評のあるものを挙げただけでZS5、E3000、碧 Light以外は持っていない。価格はいずれも2018年12月時点)

だいぶけなしたが、後述のとおりB30は自作CIEMの素材としては優秀で、安価に1DDのCIEMを製作する場合の選択肢になりうるかと思う。(ただし、重りなしの音は微妙である。安価かつ重りを少なくしたいならKZ ATR等のほうがいいんではなかろうか。多少値段がしていいなら中華以外の5000円クラスを推奨)

殻割り

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SoundPEATS B30 殻割り 1

手でこじると外れたり外れなかったりする。外れない場合は接着剤が多いので、百均の「接着剤剥がし」の液体を接合面に載せた状態で手でこじると隙間から液体が入るので3分ぐらい待てば外れる。

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SoundPEATS B30 殻割り 2

リューター等で矢印の部分に切り込みを入れる。この商品を使った。 Amazon | Wazaza 丸穴付き回転式ダイヤモンドカッティングディスク(直径22mm)10枚セット | ダイヤモンドビット

リューターに装着する円形のノコギリのようだが、実際はダイヤモンドヤスリで、誤って回転中に手が触れてもケガをすることもなく使いやすい商品である。切る・削るなど穴以外の加工に多用している。少なくとも樹脂ならば容易に加工できる。耐久性も高く、まだ1枚目を使っている。

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SoundPEATS B30 殻割り 3

逆側から見た写真。

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SoundPEATS B30 殻割り 4

切り込みのうちの一箇所をニッパーで完全に切断し、ラジオペンチ2本で左右にプラスチックを引っ張ると完全に外れる。

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SoundPEATS B30 殻割り 完了後

完了後の様子。写真を取り忘れたが、このあとDDに透明の熱収縮チューブをかぶせている。熱収縮チューブで覆わないとシェルに接着しにくいし、内部に液体の樹脂が入り込むなどのリスクも上がる。チューブが長い状態でDDを覆って収縮させてから、適当に短く切る。

シェルに固定する際には必ずカナルの穴からDDを見て、音がよく出そうないい感じの向きに固定する。BAでよくやる内径2mmなどの細長い音導管は高音が減るうえ、おそらく音がこもる原因になるので、1DDの場合は微妙かと思う。(BAならあまり気にしなくてよい。またローパスフィルタで低音だけ取り出す場合も気にしなくてよい)

チューニング

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SoundPEATS B30 CIEM 初期の状態

音道管はなく、単にシェルの穴に熱収縮チューブに包まれたDDを固定しただけである。また、DDを起点として鼓膜側の空間と、耳の外側方向の空間を樹脂によって完全に分離している。スピーカーでいえば密閉型・平面バッフルの発想で、ユニットの後方から出る音は全て捨てるという考え方である。

元々低音の多いユニットなうえ、カスタムIEMの耳に密着するシェルのおかげで振動が外部に抜けないため、オリジナルのB30の筐体と比べて低音の量が増した。再現性というのか「低音の解像度」というのか何といえばいいのか不明だが、クラシック音楽に不意に入っているような重低音も全て正確に再生されるようになった。何を再生しても中々の迫力であり「カスタムIEMの筐体というのはこれほどの威力を持つものか」と感動を覚えた一方、重低音・低音が多すぎてどうにも聞きづらい。そこで、この過剰な低音をどう減らすかがチューニングの基本方針となった。

まず、製作数日後に鼓膜側空間を分離する樹脂に0.3mmの穴を開けて音を抜こうと試みた。0.3mmなのは手持ちのドリルビットの最小サイズがそれだからだが、実際に開けてみたところ変な共鳴音(?)が出て全く話にならなかった。ので、すぐに塞いだ。穴がもっと大きくフェイスプレートがあって、反響音も聴かせるような構造はそれはそれで成立するものであり、例えばKZのZS1, ZS3, ZS4などは意図的かは別としてそういう構造らしい。が、このバスレフ的な構造のCIEMのチューニングは至難だろうし、場当たり的にやって成功するものではない。またこの構造はどう考えても細部が潰れるなどの副作用があるだろう。

製作後1週間ほど放置していたら樹脂がより硬化してきて、多少帯域バランスが改善した(0.3mmの穴は塞いである)。「製作後の樹脂の硬化」というのはCIEM製作において重要な要素である。のちにも書くが、シェルが多少縮むことでフィット感は緩くなる。また、製作直後に「ひどい音だ」と思ったとしても放置すれば大抵改善する。「剛体にガッチリ固定されたユニット」というのは理想のスピーカーの1つかと思うが、CIEMでも同様で、樹脂は基本的に硬い方がよろしいと。

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SoundPEATS B30 CIEM 重り追加後

この状態でしばらく使っていたが、どうにも不満であったので、domingo55氏の真似をして重りを追加した。重り追加により低音は減り、かなり帯域バランスはよくなった。その結果、プレイヤーのボリュームを上げられるようになった為かと思うが、中高音も大幅に増加した。

(重りはビスマスのチップをニッパーで切ってサイコロ状にしたものだ。ビスマスは鉛と違って人体に悪影響がないのでビスマスを買ったのだが、今思えば鉛で十分である)

また、変な振動が除去されたことで低音・重低音の質が改善し、音のキレもよくなった。とくに重低音のボワつきがなくなり硬質になったので、例えばカノン砲の射撃音すら正確に鳴らせるようになった。

(全然関係ない話だが、こういう10Hzぐらいの低周波をBAで再生すると破損の恐れがある。DDなら気にする必要はないはずだが、保証はしない。有名なオーディオ評論家が低周波を鳴らしてダイナミックのユニットを破損させた等という話もあるので)

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チャイコフスキー1812年(序曲)のカノン砲射撃時のスペクトラムアナライザーの様子

B30のオリジナルの音・普通にリモールドしただけの音はいずれも中高音が少なめであり、BAを2つ積んでいるKZ ZS5と比べて見劣り(聴き劣り?)する音だっだが、重り追加後は中高音が増え、ZS5を超える音になったかと思う。元が中華DDだけあって、低音は減っても十分な量でシェルの密着度の高さも相まって大変迫力がある。音導管がなく音の通り道が広いので、低音が中高音にカブったりするようなことは重りの有無に関わらず一切起きなかった。

解像度は高い。これは「解像度が高い感じがする = 解像感がある」ではない。「解像感がある」は特定周波数の豊富さにより得られるが、これは実際に細かい音が聞こえているわけである。(密閉型 or 平面バッフルの構造であること、音の通り道が広いこと、重りによる制振効果と帯域バランス改善の3つの理由からこうなる)

当然、ダイナミック1発であるから自然である。ただし、高音のキラキラする感じは流石にない。どんな音楽ジャンルとも合うが、とくにオーケストラは中々感動的な音である。

フィッティング

今回のメス型は「口を開けた状態でとったシリコンインプレッションをエポック光硬化樹脂でコピーし、形状を整えて、表面を耐水ペーパーで研磨したあと、ウレタンニスに2回漬けた原型で製作したもの」である。製作直後はやや大きく一時間以上つけていると痛くなったが、製作2週間後には若干小さくなったのか痛みの出ない最適な大きさになった。現在は半日つけていてもシェル形状に由来する痛みはなく、その点は良好である。

一方、少し重りを入れすぎたかもしれない。長時間使っていると耳が疲れる。長時間とはだいたい4時間以上である。

反省点

音についてはかなり自画自賛をしたが、悪い点もいろいろある。

  • 重りが適当で汚い。
  • 重すぎて疲れる。
  • 重りの追加の際にリッツ線を踏んづけるようにしてしまったので、内部で断線した際の修理が難しくなった。重りの上に線が来るべきである。
    • 重りについては要検討である。
  • DDのハンダパットは融点からして無鉛ハンダと思われるが、そのうえに有鉛ハンダを継いでしまった。これは将来的にハンダが外れる原因となり、望ましくない。
  • 耳の前方の突起のあたりを後から加工したが、この加工は不要だったかと思う。
  • スマホ直結だと多少微妙な音になる。ダイナミック1発は良くも悪くも上流の性能に影響を受けやすいように思う。
  • 最近、女性ボーカルが僅かに刺さる。悪化するようなら適当にスポンジ等入れるかもしれない。
    • スポンジは(音響フィルタと違って)安いうえに内径を問わないので便利である。ただしサ行の刺さり対策ぐらいしか使えない。
  • 女性ボーカルの綺麗さなど中高音の質は intime 碧 Light などの方が上である。これはどう考えてもドライバーの性能差に起因するのでどうしようもない。
    • かといって手持ちの碧 Lightをバラすわけにもいかんし……。
  • 重り追加後、さらに2週間ぐらい使っていたらどうもドライバーの性能の低さが気になってきた。正直もう少し高いドライバーを使った方がよかった……。

おまけ

2019/01/07追記

樹脂の硬化とともに高音がキツくなったため、スポンジを詰めた。

DIYEASTではオーディオメーカー・販売会社各社様からのオーディオ機器のレビュー依頼(返却のない無償の商品提供を伴うもの)を受け付けております。もちろん商品提供を受けたことは明示しますし、絶賛するとも限りませんし、イヤホンの場合はレビュー後に分解してカスタムIEM化するかもしれませんが、「べつに気にしないよ」という企業様はTwitterにてご連絡いただけると幸いです。@diyeast