たまに更新します。

スピーカー用ネットワーク(ハイパスフィルター)を作った

先日、 Technics SB-CH9 (Panasonic製) というスピーカーを入手した。正確にはたまたま人からもらったスピーカーが SB-CH9 というモデルだったわけだが、このスピーカーどうにも妙である。調べると90年台に売られていたコンポの一部らしいのだが、スピーカー端子がハイとローの2セットあるのだ。裏にバスレフポートの空いているブックシェルフスピーカーなので、スピーカー端子を外して内部をライトで照らし見てみたところ、どうもネットワークが入っていないように見えた。

とりあえずヘッドホンアンプとして使っていた真空管アンプがたまたまプリメインで、スピーカーケーブルも余っていたのでロー側だけケーブルを繋いで聞いてみたが、かなり物足りない音で残念だった。

ハイ側に端子を繋ぎ、かすかに聞こえるかどうかの非常に小さい音量でクラシック音楽をかけたところ、ノイズが入った。これで直結だと確定した。なんと困ったことにマルチアンプ(?)仕様らしい。*1

仕方ないのでハイパスフィルターを自作した。

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回路とツイーターに対する入力信号の周波数特性 (対数表示)
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ツイーターに流れる電流 (線形表示)

使ったのは新しく購入した0.33mHのコイルと家にあった6.8uFのタンタルコンデンサだ。計算上のカットオフ周波数はだいたい3300Hz。今思えばもう少し高くしてもよかったように思う。実際、インダクタンスが低い方がカットオフ周波数は高くなりコイルの値段は安くなるわけだし……。

というわけで3way全て機能するようになったので聞いてみたが、まあ音は思っていたよりはいい。机の上に直置きすると低音(500Hz以下ぐらい)がかなり変になるので底面に不要な本を挟んで少しウーファーを高くしたところ正常になった。100Hz前後の低音は全く出ない。サイン波を再生すると普通の音量が出るのが200Hzぐらいまで。120Hzだとかろうじて聞こえ、100Hzだと全く聞こえなくなる*2。一方、中高音は意外なくらい自然だ。交響曲は流石に苦しい。

置く場所がないものでパソコンデスクに置いているのだが、キーボードを触るとほとんどスピーカーの間に頭を突っ込むような位置関係になって妙な音になるのが困ったところ。椅子の背もたれにもたれて1.2mぐらい離すとだいぶ自然に感じられる。

サイズは縦36cm、横18cm、サランネット含む奥行き26cm。板はMDFの15mm。いずれの数値も私が30センチ定規で雑に測ったもの。ツイーターにハイパスフィルターを入れる場合、カットオフ周波数は12dbで3kHzが下限ぐらいかと思う。正直6kHzにすりゃよかったと思っている。

チャンネルデバイダーを使って適切なカットオフ周波数を検証し、音響的にしっかりした部屋で頑丈なスピーカースタンドに載せて鳴らせばそれなりに鳴ってくれそうな気もするが、そこまでする製品でもない。そもそも私はウサギ小屋のような部屋(しかも左右非対称形状)に住んでいるので不可能である。

リンク

雑談

「ウサギ小屋のような部屋」と言ったが、いずれは引っ越してそれなりにスピーカーを鳴らせるようにしたいものである。とはいえ、過去に住んだマンション等を思い返しても完全に左右対称な形状の部屋などないものだ。例えば「一方は扉やふすまで仕切られていて他方はガラスを通じてベランダに繋がっている正方形の部屋」というのは形状は正方形だが、壁面は左右非対称だ。などなど。

私は過去にちゃんとしたフロア型スピーカーをショボい部屋に導入しオーディオをやっていた時期があって、その結果「いいスピーカーを鳴らすにはまず建物が必要」という結論に達し、それが用意できる状況になかったのでスピーカーを諦めたという経緯がある。その後、ポータブルオーディオをやらなかったりやったりした結果、やはりスピーカーを未来永劫にわたって諦めることは不可能だと思い直した。つまり今はクソな部屋しかないが、数年以内には一応使える程度の部屋に引っ越し、さらに将来的には理想のリスニングルームを建ててやる……という野心めいたものが湧き上がってきたわけである。

(まず隣の家が200mぐらい離れている田舎の一軒家を取得する必要があるので、本当にいつになることやら。それこそ60代になるまで無理かもね)

10年くらい前はまだ若く、何ごともすぐに理想が手に入らないと嫌になっていたものだが、歳をとったおかげで長期的視野に立って物事を考えられるようになった。また、捨て値のスピーカーでも意外に聴けると言うなど、制限された状況で面白味を見つけて楽しめるようになった。理想のリスニングルーム等というのは簡単に手に入るものではない……というか、B&Wのモニタースピーカーよりずっと高価なので、今はDIYを通じて技術・経験を蓄積できれば十分だ。限りなく理想に近い状態で音を聴くだけがオーディオではない。そこを目指すところも含めてオーディオなのであり、それゆえDIYもオーディオの1つの手法なのである。そしてDIYは思った以上に面白いと……。

近況

4BAのイヤホンを製作し、調整中。今回はドライバが壊れる等のトラブルはなく、結構いい音で鳴っている。

*1:当たり前だが、ツイーターに通常の音量の低音を入力すると破損する。ごく微細な信号であれば問題ないが、こういう行為は危険なので高価なツイーターには行ってはならない。

*2:私の耳は20Hzぐらいまでは普通に聞こえる。

オーディオテクニカ ATH-SX1a の修理

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ATH-SX1a + 中華イヤーパッド

2年くらい前にビビリ音が出るようになって放置状態だったATH-SX1aを修理しました。

清掃編

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イヤーパッドを外したATH-SX1a (清掃後)

いきなり汚い写真を見せて申し訳ないのですが(汚いので縮小表示にした)、オリジナルの状態では写真の円形部分に接着剤が塗ってあって、イヤーパッドのウレタンと接着されていました。これは最悪です。どう最悪かというと、ウレタンが経年劣化でボロボロになり、ボロボロになって千切れたウレタンの破片が振動板に付着して動作不良(ビビリ音)が起こるわけです。その様子を外部から見ることはできないのでダイナミックドライバーの不良か何かで「壊れた」と思ってしまうわけです。うちのATH-SX1aはその後ウレタンが更にボロボロになり、イヤーパッドが脱落し、ウレタンの破片が内部に入り込んでいる様子が明らかになりました。

修理手順ですが、まずイヤーパッドを外します。このイヤーパッドは再利用不可なのでボロボロであれば切って外して構いません。すると金属板にウレタンが残るので、その部分を指でこすります。指でこすると「金属の穴」にこびりついたウレタンが外れます。このとき「耳に当てる側」を下向きにしておくと、ウレタン破片が下に落ちてくるのでそのようにします。

穴からウレタンが全て外れたら、手動ブロワーで吹いて金属板の向こう側のウレタン片を除去します。吹く角度はできるだけ振動板に対して平行方向から吹くようにします。垂直方向に吹くと振動板に加わる力が強くなるのでよろしくないということです。

ピンセットで除去することも可能ですが、先端の尖ったピンセットは絶対に使ってはいけません。万一振動板に刺さったら穴があいて終わりです。

とにかく指で「金属の穴」をこすって手動ブロワーで平行に吹きます。ブロワーを吹いても内部からウレタンが出てこなくなったら金属板を爪でこすって残った接着剤を除去します。接着剤がある程度取れたら少量のアルコールをつけた布か何かで拭きます。この際、あまり強い有機溶剤は使ってはいけません。気化した有機溶剤で振動板が破損するおそれがあるからです。(実は前に別件でやらかしたことがある)

ついでにハウジングを構成する2部品を固定する4つのネジも外して洗浄しておきます。このネジを外すとハウジング内部を見ることができますが、ハウジングの内外の部品は内部配線で繋がっているので、これに負担をかけないように慎重に外してください。ついでですから、ハウジングの内部をアルコールをつけた布で吹いて汚れを落としておきます。

私はイソプロピルアルコールと水を混ぜたもの(IPAが4、水が1ぐらい)を使いましたが、プラスチックの破損等はありませんでした。酒税の関係でIPAの方が安いですが、エタノールと同じような物質なので、エタノールを使っても特に問題はないかと思います。水を混ぜたのはアルコール100%だとすぐ気化して使いにくい、というだけですので、別に無水でも市販の消毒薬でも何でもいいでしょう。

それにしても経年劣化したウレタンの破片が振動板に当たるなどというのは最悪の設計です。金属板に直接ウレタンを貼るのではなく間に一枚布を入れるだけでこういうことは起きないわけです。業務用のタフなフレームのモニターヘッドホンとは思えない設計ミスかと思います。ウレタンというのは製造後すぐに加水分解が始まり、数年でボロボロになるわけですから、こういう設計はいけません。これを作ったのはソニーではなくオーテクですが、流石にソニータイマー的な意図で行われたわけではない……と信じたいところです。

上述のやり方でウレタン破片を除去したところ、ビビリ音がなくなったので次に進みます。よく見ると振動板に微細なウレタンがついているような気がしますが、これを除去することは残念ながら不可能でしょう。まあ音を聞いて問題がなければそれでいいわけです。

(カメラのレンズのように完全に露出しているものならば細かい刷毛で落とすこともできるが……)

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私の言う「手動ブロワー」

私の言う「手動ブロワー」とはこの写真のようなものです。写真家がレンズの清掃に使うやつですが、これが何という名前の器具なのかよくわからないので、勝手に「手動ブロワー」と呼んでます。普通ブロワーというと大型の電動のものを指すので困ったところです。

100円ショップで買えて、当たり前だが出力が低いので便利です。口で息を吹きかけるのと違って湿気のない空気が出てくるのもいいところです。

缶式のエアダスターもありますが、パワーがありすぎるし「充填されたガス」を噴出するものなので、この作業には向かないでしょう。

イヤーパッド

純正のイヤーパッドは3000円くらいで買えますが、いうほど高品質なものでもないので、ここは社外品を採用します。実はATH-SX1aとMDR-CD900STは互換性があって、社外品の高級イヤーパッドも使えそうです。が、とりあえずAmazonで350円のものを買いました。金属板に付着したウレタンを除去したので、イヤーパッドは後からいくらでも交換可能です。

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ATH-SX1aの純正イヤーパッド(左)と中華イヤーパッド(右)

並べて見ると全然形状が違いますが一応使えます。左の純正品の中心部分にスポンジの剥がれた跡が見えますが、この剥がれたスポンジが金属板に接着されていたわけです。

展望

ATH-SX1aを軽く分解した限りでは、リケーブル可能なように改造しバランス化するのは簡単そうです。片出しの場合、純正のケーブルを除去してできた穴に4極のプラグを入れて配線すれば済みそうですが、後のことを考えると両出しかつケーブル自作の方が何かと都合がよさそうです。

頭頂部が当たるヘッドバンドもだいぶボロボロですが、このヘッドバンドの交換は大変です。内部配線を一度切って完全分解しないと交換できません。どうせそれをやるなら両出し改造もしたいところです。ちなみにATH-SX1aのヘッドバンドの販売はないので、交換するなら社外品か自作かのどちらかでしょう。流石にヘッドバンドの中華ノーブランド製品はないようです。

あと、完全分解の方法もよくわかりませんが、本体の構造がMDR-CD900STと似ているようなので、MDR-CD900STの分解方法を参照しながらやれば出来そうです。

実はMDR-CD900STもヘッドバンドだけを取り寄せることができませんが、MDR-7506ならばヘッドバンドだけ取り寄せられるので、もし交換するならこれを使うことになりそうです。ATH-SX1aと互換性があるかどうかは不明です。

音について

買ってから数年間のウレタンがボロボロになる前の期間は高域の刺さりというのは一度も感じたことがなかったですが、修理直後はかなり高域が刺さるようになって「やはりダメか」と思いました。しかし、数時間鳴らしたまま放置したところだいぶ改善し、現在は普通に使える程度の音が出ています。「数年使った後、2年位音を出してない状態でいきなり音を出すと変な音が出て、数時間鳴らすと改善した」という話はまあ何というか、エージング関係の議論に多少は役立つ事実かと思うので、一応書いておきます。

純正と違って音の通り道にウレタンがないので、高域の量は増えたはずです。先日レビューしたZero Audio CARBO-iに比べるとやや暗い音です。音の分離はヘッドホンであるこちらの方が上です。モニターにしてはかなり聴きやすい部類かと思います。

低音は普通です。特にカッチリした感じはないです。ハウジング内の反響が結構ありそうな気がするので、いずれ吸音材を追加する等の加工をするかもしれません。側圧は強く装着感はあまりよくないです。というか、今現在まさに耳が痛いです。

長々書いておいてなんですが、たまたま自宅に眠っていたから修理しただけで、今更買ったり取り上げたりするヘッドホンでもないです。単なる私の思い出話のようなものです。

その他の製品の話

ところで、 AKG K271MKII はケーブル交換可能、イヤーパッドも簡単に交換可能で装着感もよくお値段1万円なので、今からリスニング用途で密閉型モニターヘッドホンを買うならこちらがおすすめです。まあ、サウンドハウスのレビューには「フレームが折れる不具合」が書かれていたりしますが。(ATH-SX1aはフレームだけは頑丈です)

beyerdynamic DT 1990 PROは良さげです。私が追いかけているハードコアテクノ系のトラックメーカー(M-Project氏)もベイヤーの旧モデルからDT1990PROに買い替えたそうな。値段も5万円で、高級ヘッドホンの中では安い部類です。

ところで、打ち込み系を聴くならモニターヘッドホンが一番だという持論をだいぶ前から持っているのですがどうなのでしょうか。「打ち込み系には低域が多いイヤホン・ヘッドホンがいい」という人もいますが、中華系の1DDの低域マシマシイヤホンで低域の誇張された打ち込み系ソースを聴くと低域が多すぎて低域が低域で低域なので何が何やらわけがわかりません。実際トラックメーカー自身もモニターヘッドホンで作曲しているわけですし、まあモニター系のもので聴くのがよさげな気はします。

(そもそも私のいう「打ち込み系」はハードコアテクノ系のことであり、彼らのいう「打ち込み系」はEDM系だったりするわけですが、脱線しすぎなので割愛します)

おまけ

以前、クラッシック音楽のレコードを4000枚位持っているオーディオマニアの自宅に行ったことがあるのですが、面白かったのは、普通はクラッシックファンで通っているこの御仁も、家で普段聴くのは演歌や、意外と子供が聴く浜崎あゆみを気に入って、しょっちゅうかけていると、奥さんが面白おかしく話していました。まあ、クラッシック音楽も好きなのでしょうけど、浜崎あゆみを結構気に入って、子供以上に熱心に聴いているというのが、私にはとても微笑ましく思えたのでした。別に、浜崎あゆみの音楽がダメって言っている訳ではなくて、この方がオーディオマニアの集いなどでは、恐らく間違っても、浜崎あゆみを最近熱心に聴いている等とは言わないだろうなと思うと、オーディオっていう趣味の奥深さを思うのです。

と、いうわけで、オーディオ系のブログですが、クラシック以外の音楽も載せたわけです。

Zero Audio CARBO i のレビュー

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Zero Audio CARBO i

Zero Audio CARBO i はここ最近聞いた or 買ったイヤホンの中で最も良かったものの1つであるからレビューしておく。何ヶ月か前に luna-luna さんが絶賛しているのを見て試聴もせずに買ったものである。

まずこのイヤホン、付属のイヤーピースで聞くと確かにフラットでいいのだが、ややストレスの溜まる音がする。また低音も少なめである。それを改善しようと付属イヤーピースの裏側にウレタンの輪っかを入れるという改造(というほどでもないが)を施したところ、余計に高音が出る感じになっていまいちだった。何だかんだこの状態で3ヶ月くらい使ったり使わなかったりした。

つい最近になって、全くの思いつきだったのだが、 Etymotic Research の ER4 シリーズのようにトリプルフランジのイヤーピースを付けてみたところ「ストレスの溜まる音」が改善し、低音も十分出るようになった。思うにこの「ストレスの溜まる音」というのは音の一部が鼓膜と反対側の方向に抜けるか何かして起きているのだと思う。つまり遮音性を上げれば改善するし、低音の減少も同じ原理で起こるので片方が改善されればもう一方も改善されるというわけである。過去には改善策としてウレタンを使ってうまくいく場合が多かったが、 Carbo i については今まで考えもしなかったトリプルフランジが最適だったわけである。

トリプルフランジを前提としたレビューは以下のとおり。どの帯域も綺麗に出ており、また細かい音が潰れることもなく、音の分離も素晴らしい。こんな強烈に高性能なドライバーをよく作ったものだなと痛く感心させられる。オールジャンルだいたい何でも鳴らせて、珍しいことではあるがポップスとクラシックの両方に向いている。この点から考えても並のイヤホンでないとわかる。定位感も完璧である。クール系かウォーム系かでいえばクール系である。元々ドライバーが小口径なこともあって、ハウジング共振による性能低下は起こらない。(つまり質の高い低音が出る)

ただし、音源をそのまま再生するタイプのイヤホンであるから、録音年代が古いなどの理由で音が荒れているとそのまま荒れた音が再生される。この点は音源の荒れを吸収してしまう Final E3000 などとは正反対の特徴である。また Knowles ED-29689 (ER4Pなどに採用)のように倍音を増強する効果もない。あくまで音源を忠実に再現するタイプの製品である。*1

付属のイヤーピースでは「まあ性能は高いがこんなものか」という風であったが、トリプルフランジに替えると生涯使えそうなくらいの素晴らしい音になる。どうせならトリプルフランジを標準のイヤーピースにしておいてくれればもっと早くこのイヤホンの素晴らしさに気づけたのだが、残念でならない。また、このような頭一つ抜けた性能のイヤホンが( luna-luna さんの周辺を除いて)あまり話題になっていないのも気になるところだ。やはり標準のイヤーピースではドライバーの性能を引き出せないのではないか。

私が使っているイヤーピースは上記のもののLサイズで、だいぶ前に買ったあと放置状態だったものだ。普段Lサイズを使うことはない程度の耳の大きさだが、これはたまたまLサイズでちょうどよかった。中国製ノーブランドであり、ゴムはペラペラで決して品質の高いものではないので、今からトリプルフランジのイヤーピースを買う人はもう少しマシなものを買った方がいいだろう。

なお、 Carbo i のステムサイズはコンプライの500なので、 Etymotic Research のトリプルフランジは装着不可能である。また、耳の都合上トリプルフランジが使えない人はダブルフランジやコンプライを使うといい音になるかもしれないが、試していないのでどうとも言えない。

他機種との比較

Final E3000と比べた場合、Carbo iの方が優秀に思える。というのも、E3000についている「目の細かいフィルタ」がどうも音の邪魔をしているように思えてならない。E3000に関しては付属イヤーピースの裏側にウレタンの輪っかを入れる方法がうまくいった。 "モルデックス イヤーピース 自作" などで検索するとやり方が出てくる。(ウレタンの輪っかないしコンプライの類をイヤーピースとして直接つけると余計に高音が減衰するのでよくない)

ただ、そのように多少E3000を改善しても Carbo i + トリプルフランジの方がいい音がしている。E3000に不満な場合、フィルタを引っ剥がすのが一番いいような気がするがどうにも躊躇われるので行っていない。出音からして、 Carbo i にはこのようなキツイフィルタはないと思われる。

ER4シリーズは持っていないので比較はしないが、ER4ユーザーには一度Carbo iを試してほしいし、きっと気に入るのではないか。とはいえ、トリプルフランジのイヤーピースでなければ試聴しても本来の性能がわからないように思われる。eイヤホンだとゆっくり試聴できるスペースがあるうえ「イヤーピースの試聴」もできたはずなので、店員に頼めば Carbo i + 店内のトリプルフランジの組み合わせで試聴できるかもしれない。(保証はしない)

一応、 KZ ATR とも比較しておく。ATRはドライバーの大きさに対してハウジングがショボい為、音量を上げると共振だか何だかの原因で音が悪化するが、Carbo iにはそういう現象はない。またATRは中華イヤホンの中でも典型的なウォーム系低音多めサウンドであるが、Carbo iはクール系である。音の分離や何やらは相当な差があり、KZ系のダイナミックドライバーがここに追いつくのは相当先になるのではないか。*2

Carbo iの弱点

Shure掛けはやってできなくはないが難しい。公式に推奨されている装着法以外は無理かと思う。また、その装着法のせいでケーブルのタッチノイズが非常に大きい。私自身は分岐部分に後からクリップを追加して使っている。普段はクリップを使うことなどないのだが、Carbo iに関してはクリップなしでは運用が難しい。クリップを使えばタッチノイズはなくなる。

クリップはワニ口クリップの持つ側に開いている穴に針金を通し、ハンダ付けで固定し、各部に熱収縮チューブを通したものである。あとは針金を折り曲げれば Carbo i の平型ケーブルに装着可能となる。ワニ口クリップは100円ショップで売られているメモクリップでも代用可能かと思う。(というか、メモクリップとワニ口クリップは同じ商品に見える)

他のイヤホンについて

冒頭に「最も良かったものの1つ」と書いたが、他にもよかったものがあったので機種名だけ挙げておく。以下はすべて試聴だけであり、所有していない。

  • OSTRY KC06
  • 茶楽音人 Co-donguri Brass
  • Sony MDR-EX800ST
  • Acoustune HS15 シリーズの全ての機種(特徴的な音を出す)

近況

少し前にハイブリッドのカスタムIEMを自作したのだが、組み終わったあとDDが壊れていることに気づいた。ニッパーでバラしたところ、 ED-29689 を2つとも破壊してしまった。そもそも取り出しにくい位置に ED-29689 を置いたのがよくなかった。DDの破損さえなければいい結果になっただけに無念である。

追記

拙文取り上げてくださってありがとうございました。実のところ私は「最近のイヤホン」については不案内でして、当方が持っておる低価格帯のイヤホンは大部分が luna-luna さんのレビューに影響を受けて買ったものであります。この機会に厚く御礼申し上げます。

ついで、といってはなんですが、先方の記事のうちよく記憶に残っているものを2つほど載せておきますので、未読の方はぜひ。(いずれアンプも製作したいとは思うのだけれど、いつになることやら)

*1:本当に倍音が増えているのかどうかは保証しかねるが、 ED-29689 には楽器や人の声が「よりよい音になる」効果があるのだ。私が聞いた限りでは倍音が増えているように思われるということである。

*2:追記: 「相当先」というのはそもそも技術以前に音の方向性が違うということも加味しています。

SoundPEATS B30 によるCIEM製作

材料など

  • SoundPEATS B30から取り出したダイナミックドライバー(以下DD)
  • シェルはエポック光硬化樹脂
  • 色はガイアカラー純色シリーズを混ぜたもの。小さい瓶に光硬化樹脂をとって、その上から使い捨てのスポイトで塗料を入れて直接混ぜる。
    • ガイアカラーは顔料が多いらしいので、半透明な色付きシェルを作る場合、Mr.カラーなどのCMY塗料の方がいいかもしれない。模型の場合、顔料が多い方が隠蔽力が高く有利だというが、半透明カラーシェル製作においては微妙だ。また顔料の方が混ざりにくいという問題もある。
    • 模型用品はヨドバシカメラの通販(送料無料)で買うのが良い。Amazonだと微妙だ。
  • リッツ線はモガミ2706をオヤイデ電気の通販で買った。
    • モガミ2706は極細でありながらニッパーで容易に被膜が剥けるうえ、ハンダものりやすく作業性がよい。逆にイヤホンから取り出した適当なリッツ線の類はハンダが乗りにくくトラブルの原因になるのでここは金を出して買った方がよい。
    • ついでに「細い電線」(適当なスピーカーケーブル等)も買っておくと、例えばイヤホンケーブルや延長ケーブルの製作に役立つ。なにせオヤイデ電気は送料が600円なので、多めに買った方がいいと……。(ステレオミニプラグはAliExpressがオススメ)
  • ケーブルは手持ちの適当なMMCX。いずれ自作する。
  • ネクターはMMCXでAmazonの中華発送のもの。オスピンでケーブル製作も出来ちゃう。 Amazon.co.jp: GRALARA MMCX コネクタ

オリジナルのSoundPEATS B30のレビュー

悪くはないが、高音がやや少なめでかすれた感じがある。ハウジングの外側は金属だが薄くて軽い。内側は柔らかめのプラスチックでショボいので折角のドライバーの性能が活かしきれていない。オリジナルの状態で比較するならば KZ ZS5 の方が明らかに高性能。

(たいていのイヤホンのハウジングはショボいので悲しいところである。ユニバーサルの場合、重量を増すと耳から脱落するなどの問題が起こるのでむやみに重くするわけにもいかないが、せめてB30のような柔らかいプラスチックではなく、硬いプラスチックを採用してくれればと思う)

イヤーフィンを外すとシュアがけ可能。ドライバーから出る低音はそこそこ多い。

まあ今これを買うなら1050円でハイブリッドのAIKAQI A04とか、2000円かそこらのKZ ZSNとか、「まともな帯域バランス」という噂のRevonext RX8とか、今なら20ドルで買えちゃうKZ ZS5とかがいいんじゃないでしょうか。あとTFZ T2Galaxyをマスドロップで買うと安いらしいが、それを買うならFinal E3000やintime 碧 LightやRHA S500が選択肢に入る。そういえばKZ ZS7が発売されたそう。個人的にはRevonext QT3や品質が改善したらしいTRN V10(あるいはV80)なんかも気になるところだが、"3ドラ以上ハイブリッド"の定番であるZS5が20ドルということを考えるとどうにもなと。(前述のイヤホンは定評のあるものを挙げただけでZS5、E3000、碧 Light以外は持っていない。価格はいずれも2018年12月時点)

だいぶけなしたが、後述のとおりB30は自作CIEMの素材としては優秀で、安価に1DDのCIEMを製作する場合の選択肢になりうるかと思う。(ただし、重りなしの音は微妙である。安価かつ重りを少なくしたいならKZ ATR等のほうがいいんではなかろうか。多少値段がしていいなら中華以外の5000円クラスを推奨)

殻割り

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SoundPEATS B30 殻割り 1

手でこじると外れたり外れなかったりする。外れない場合は接着剤が多いので、百均の「接着剤剥がし」の液体を接合面に載せた状態で手でこじると隙間から液体が入るので3分ぐらい待てば外れる。

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SoundPEATS B30 殻割り 2

リューター等で矢印の部分に切り込みを入れる。この商品を使った。 Amazon | Wazaza 丸穴付き回転式ダイヤモンドカッティングディスク(直径22mm)10枚セット | ダイヤモンドビット

リューターに装着する円形のノコギリのようだが、実際はダイヤモンドヤスリで、誤って回転中に手が触れてもケガをすることもなく使いやすい商品である。切る・削るなど穴以外の加工に多用している。少なくとも樹脂ならば容易に加工できる。耐久性も高く、まだ1枚目を使っている。

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SoundPEATS B30 殻割り 3

逆側から見た写真。

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SoundPEATS B30 殻割り 4

切り込みのうちの一箇所をニッパーで完全に切断し、ラジオペンチ2本で左右にプラスチックを引っ張ると完全に外れる。

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SoundPEATS B30 殻割り 完了後

完了後の様子。写真を取り忘れたが、このあとDDに透明の熱収縮チューブをかぶせている。熱収縮チューブで覆わないとシェルに接着しにくいし、内部に液体の樹脂が入り込むなどのリスクも上がる。チューブが長い状態でDDを覆って収縮させてから、適当に短く切る。

シェルに固定する際には必ずカナルの穴からDDを見て、音がよく出そうないい感じの向きに固定する。BAでよくやる内径2mmなどの細長い音導管は高音が減るうえ、おそらく音がこもる原因になるので、1DDの場合は微妙かと思う。(BAならあまり気にしなくてよい。またローパスフィルタで低音だけ取り出す場合も気にしなくてよい)

チューニング

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SoundPEATS B30 CIEM 初期の状態

音道管はなく、単にシェルの穴に熱収縮チューブに包まれたDDを固定しただけである。また、DDを起点として鼓膜側の空間と、耳の外側方向の空間を樹脂によって完全に分離している。スピーカーでいえば密閉型・平面バッフルの発想で、ユニットの後方から出る音は全て捨てるという考え方である。

元々低音の多いユニットなうえ、カスタムIEMの耳に密着するシェルのおかげで振動が外部に抜けないため、オリジナルのB30の筐体と比べて低音の量が増した。再現性というのか「低音の解像度」というのか何といえばいいのか不明だが、クラシック音楽に不意に入っているような重低音も全て正確に再生されるようになった。何を再生しても中々の迫力であり「カスタムIEMの筐体というのはこれほどの威力を持つものか」と感動を覚えた一方、重低音・低音が多すぎてどうにも聞きづらい。そこで、この過剰な低音をどう減らすかがチューニングの基本方針となった。

まず、製作数日後に鼓膜側空間を分離する樹脂に0.3mmの穴を開けて音を抜こうと試みた。0.3mmなのは手持ちのドリルビットの最小サイズがそれだからだが、実際に開けてみたところ変な共鳴音(?)が出て全く話にならなかった。ので、すぐに塞いだ。穴がもっと大きくフェイスプレートがあって、反響音も聴かせるような構造はそれはそれで成立するものであり、例えばKZのZS1, ZS3, ZS4などは意図的かは別としてそういう構造らしい。が、このバスレフ的な構造のCIEMのチューニングは至難だろうし、場当たり的にやって成功するものではない。またこの構造はどう考えても細部が潰れるなどの副作用があるだろう。

製作後1週間ほど放置していたら樹脂がより硬化してきて、多少帯域バランスが改善した(0.3mmの穴は塞いである)。「製作後の樹脂の硬化」というのはCIEM製作において重要な要素である。のちにも書くが、シェルが多少縮むことでフィット感は緩くなる。また、製作直後に「ひどい音だ」と思ったとしても放置すれば大抵改善する。「剛体にガッチリ固定されたユニット」というのは理想のスピーカーの1つかと思うが、CIEMでも同様で、樹脂は基本的に硬い方がよろしいと。

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SoundPEATS B30 CIEM 重り追加後

この状態でしばらく使っていたが、どうにも不満であったので、domingo55氏の真似をして重りを追加した。重り追加により低音は減り、かなり帯域バランスはよくなった。その結果、プレイヤーのボリュームを上げられるようになった為かと思うが、中高音も大幅に増加した。

(重りはビスマスのチップをニッパーで切ってサイコロ状にしたものだ。ビスマスは鉛と違って人体に悪影響がないのでビスマスを買ったのだが、今思えば鉛で十分である)

また、変な振動が除去されたことで低音・重低音の質が改善し、音のキレもよくなった。とくに重低音のボワつきがなくなり硬質になったので、例えばカノン砲の射撃音すら正確に鳴らせるようになった。

(全然関係ない話だが、こういう10Hzぐらいの低周波をBAで再生すると破損の恐れがある。DDなら気にする必要はないはずだが、保証はしない。有名なオーディオ評論家が低周波を鳴らしてダイナミックのユニットを破損させた等という話もあるので)

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チャイコフスキー1812年(序曲)のカノン砲射撃時のスペクトラムアナライザーの様子

B30のオリジナルの音・普通にリモールドしただけの音はいずれも中高音が少なめであり、BAを2つ積んでいるKZ ZS5と比べて見劣り(聴き劣り?)する音だっだが、重り追加後は中高音が増え、ZS5を超える音になったかと思う。元が中華DDだけあって、低音は減っても十分な量でシェルの密着度の高さも相まって大変迫力がある。音導管がなく音の通り道が広いので、低音が中高音にカブったりするようなことは重りの有無に関わらず一切起きなかった。

解像度は高い。これは「解像度が高い感じがする = 解像感がある」ではない。「解像感がある」は特定周波数の豊富さにより得られるが、これは実際に細かい音が聞こえているわけである。(密閉型 or 平面バッフルの構造であること、音の通り道が広いこと、重りによる制振効果と帯域バランス改善の3つの理由からこうなる)

当然、ダイナミック1発であるから自然である。ただし、高音のキラキラする感じは流石にない。どんな音楽ジャンルとも合うが、とくにオーケストラは中々感動的な音である。

フィッティング

今回のメス型は「口を開けた状態でとったシリコンインプレッションをエポック光硬化樹脂でコピーし、形状を整えて、表面を耐水ペーパーで研磨したあと、ウレタンニスに2回漬けた原型で製作したもの」である。製作直後はやや大きく一時間以上つけていると痛くなったが、製作2週間後には若干小さくなったのか痛みの出ない最適な大きさになった。現在は半日つけていてもシェル形状に由来する痛みはなく、その点は良好である。

一方、少し重りを入れすぎたかもしれない。長時間使っていると耳が疲れる。長時間とはだいたい4時間以上である。

反省点

音についてはかなり自画自賛をしたが、悪い点もいろいろある。

  • 重りが適当で汚い。
  • 重すぎて疲れる。
  • 重りの追加の際にリッツ線を踏んづけるようにしてしまったので、内部で断線した際の修理が難しくなった。重りの上に線が来るべきである。
    • 重りについては要検討である。
  • DDのハンダパットは融点からして無鉛ハンダと思われるが、そのうえに有鉛ハンダを継いでしまった。これは将来的にハンダが外れる原因となり、望ましくない。
  • 耳の前方の突起のあたりを後から加工したが、この加工は不要だったかと思う。
  • スマホ直結だと多少微妙な音になる。ダイナミック1発は良くも悪くも上流の性能に影響を受けやすいように思う。
  • 最近、女性ボーカルが僅かに刺さる。悪化するようなら適当にスポンジ等入れるかもしれない。
    • スポンジは(音響フィルタと違って)安いうえに内径を問わないので便利である。ただしサ行の刺さり対策ぐらいしか使えない。
  • 女性ボーカルの綺麗さなど中高音の質は intime 碧 Light などの方が上である。これはどう考えてもドライバーの性能差に起因するのでどうしようもない。
    • かといって手持ちの碧 Lightをバラすわけにもいかんし……。
  • 重り追加後、さらに2週間ぐらい使っていたらどうもドライバーの性能の低さが気になってきた。正直もう少し高いドライバーを使った方がよかった……。

おまけ

2019/01/07追記

樹脂の硬化とともに高音がキツくなったため、スポンジを詰めた。

ボークス造形村透明シリコンの気泡除去(気泡のないシリコン型の製作法)

CIEM自作にはボークス造形村透明シリコンでメス型を作るのが定番であるが、これは非常に粘性が高いので、混ぜると気泡が入って取れない。その気泡をほとんどゼロにする方法を書いておく。

(以下はCIEM制作を仮定する。プラモデル等の場合、使うシリコンの量がCIEMより数倍多いかと思うので、その場合は注意されたい)

必要なもの

  • まず食品用減圧容器を買う。これは1.8Lなどの最大サイズのものでよい。どこのメーカーでもいいが、私は加藤産業のものを使っている(多分一番安い)。
  • キッチンスケール(重量をはかるやつ)を持っていないなら、買っておく。重量を量らずに混ぜると硬化不良が起きる。
  • 百均でタッパーと、製菓用のヘラを買っておく。
    • タッパーは減圧容器に入り、ヘラはタッパーの短辺よりやや小さいサイズであること。
    • タッパーは「電子レンジ可」のものを買うこと。ポリプロピレン製であれば間違いない。
    • またタッパーの蓋は使用しない。
  • ボークス造形村透明シリコンは持っているものと仮定する。ちゃんと残量が足りるか確認しておく。
    • シリコンの量については自分の作業環境において片側何グラム必要なのか把握しておくべきである。うちの場合、約50gだ。(両側で100g)
    • 最初の一回はわからないので、多めの量を混ぜて作業し、その際に重量を測ってメモしておく。
    • 「両側で100g」だからといって、100gちょうどを混合してはいけない。一部は「混ぜる容器」にへばりついて取れないからである。(120gなら間違いなく足りる)

シリコン作業の前にやること

作業手順

  • まずタッパーの重量を量っておく。主液をタッパーに入れ、主液の重量を量って計算し、メモしておく。
  • タッパーごと湯煎し、主液に対し1/10の重量の硬化剤を入れ、ヘラで手早く混ぜる。そのまま食品用減圧容器で減圧する。「ポンプを40秒操作したら水平に揺さぶる」という行為を何度か行う。
    • 「湯煎」は一度沸かしたお湯の火をとめ、主液を入れたタッパーを5分程度浮かべておくだけで十分である。沸騰していると飛び散った水滴が入るなどトラブルの原因になる。湯煎の目的は粘度を減らすためである。とくに冬場は湯煎しないと硬化剤を混ぜることすら難しい。
    • 「手早く混ぜる」は30秒程度でキッチリ混ざるように混ぜることをいう。予め入れるべき硬化剤の量を計算しておくのが望ましい。ここに時間がかかると、液体の粘度が上がって気泡が抜けなくなる。
      • ヘラを使うことで効率的に混ぜられる。横着して割り箸で混ぜたりすると無駄な時間がかかって気泡が抜けずに失敗する。
    • 「ポンプを40秒操作」とは「全力でポンプを上下させる」という意味だ。肩で全力疾走するようなもので、たいてい肩の三角筋に乳酸が溜まる。
    • 「水平に揺さぶる」と、タッパーと減圧容器の壁どうしが衝突して振動が加わるので、シリコン表面の気泡が消える。減圧しただけだと気泡は表面に移動するだけで消えるとは限らない。振動・衝撃が重要である。
  • 表面の気泡が消え、シリコン内部に1mm程度の大きさの気泡が残った状態になったら減圧容器から取り出す。内部の気泡は除去困難だが大気圧に戻すと見えなくなる。
    • 目で見て見えない微細な気泡はあっても問題にならないので、無理に内部の気泡を消そうとしないこと。
  • タッパーを減圧容器から取り出したらヘラを用いずに、タッパーを傾けて重力だけでシリコンを「インプレッションを固定したメス型の型」に流し込む。左右ペアで作る場合は半分ずつ流し込むように注意する。重力だけで流し込んだ時点でカナルの先端まで埋まっているのが望ましい。
    • このまま放置すれば気泡のないメス型ができる。「メス型の型」を減圧する必要はない。
  • タッパーにへばりついたシリコンはヘラで削ぎ落とすわけだが、その際に確実に気泡が入るのでいまいち使い出がない。
    • フェイスプレートを型で作る場合は削ぎ落とさずにタッパー内で板状に硬化させるとよい。翌日「メス型の型」から取り出したインプレッションを板状シリコンに固定し、シリコンを流し込めば「フェイスプレートの型」ができる。
  • ヘラの先端がシリコンで出来ている場合、洗わずに放置すると造形村のシリコンが癒着して取れなくなる恐れがあるので、作業終了後に必ず洗うこと。
    • シリコン樹脂以外の樹脂、とくにポリエチレン、ポリプロピレン製ならば癒着しない。

いろいろ

気泡を抜くため、いろいろなやり方を試したが「タッパーとヘラ」の組み合わせが最も気泡が少なく混ざりやすいかと思う。タッパーは「メス型の型」に比べて面積が大きいゆえ、液面の高さが低くなる。つまり、タッパーのまま減圧すれば気泡の移動距離は1センチか2センチ程度で済むので確実に抜けると。もちろん電動の真空ポンプを持っている人はそれを使ったらよろしい。

シリコンが硬化不良を起こした場合、追加で20時間ぐらい放置しておくと硬化することがある。また、ボークス造形村透明シリコンの硬化時間は24時間だが、寒い時期は24時間といわずに36時間ぐらいおいた方がいいかと思う。

上記の話とは無関係だが、エポック光硬化樹脂(369樹脂)はポリエチレンは溶かさないので、この樹脂を扱う場合はポリエチレン製のスポイトを持っていると便利である。5mlで50本入りのものがAmazonで数百円で売られているかと思う。

KZ ZS5 (純正マイク付きケーブル)のクロストーク

イヤホンのクロストークを測定する。クロストークというのはまあようは右の音声信号が左のユニットに流れ込む現象である。「あるかないか」を調べるにはPC等で右側だけ音声を出し、左側のイヤホンだけで音を聴いて聞こえれば「ある」。

クロストークは普通に音楽を聴くときに起きていて、これが大きいほどモノラルに近づくので普通は嫌ってできだけ減らそうとする。その究極の対策がバランス接続である。(4芯アンバランスでもかなり少なくなる)

回路的な説明は面倒なのでリンク先を見てほしい。ようはクロストークデシベルは左右の回路の共通抵抗をR2、GND端子からLR片方の端子まで測った抵抗をR1として、20*log(R2/R1)/log(10)で求まるということだ。

イヤホン/ヘッドホンのクロストーク イヤホン測定結果置き場

クロストークデシベルはテスターがあるなら端子の電極どうしの抵抗を測って計算し求めることができる。(共通インピーダンス = イヤホンケーブルの共通部分の抵抗値)

テスターでケーブルの共通インピーダンスを測る イヤホン測定結果置き場

早速手元のKZ ZS5のクロストークを求めたいところだが、よくみたらプラグが4極3.5mmなのである。よく考えたらマイクつきモデルだった。マイク付き4極プラグのアサインは2つあってCITAとOMTPである。真偽不明の情報だがOMTPは初期のXperiaで採用されたもので、現在はだいたいCITAとのこと。

3.5mmプラグ(ミニプラグ/フォーンプラグ)のピンアサイン(3極/4極/5極) - rencontRe Lab.

CITAかOMTPかは不明なので、とりあえず両方について抵抗値をテスターで計測し、共通インピーダンスとクロストークを計算する。なおテスターはOHM(オーム電機) デジタルマルチテスター 普及型 TDX-200 (04-1855)を使用した。

cita Lch-GND 14.4 [ohm]
cita Rch-GND 14.5
cita Lch-Rch 27.5
cita Rc (14.4+14.5-27.5)/2 = 0.7
omtp Lch-GND 14.3
omtp Rch-GND 14.5
omtp Lch-Rch 27.5
ompt Rc (14.3+14.5-27.5)/2 = 0.65
CITA ならば 20*log(0.7/14.45)/log(10) = -26.295 [dB]
OMTP ならば 20*log(0.65/14.4)/log(10) = -26.908 [dB]

以上より、CITAと仮定すると共通インピーダンスは0.7[Ω]、クロストークは-26.2[dB]である。OMTPならば0.65/-26.9なので大差ない。

ところで、この-26[dB]というのはいいのだろうか、悪いのだろうか。明らかに悪い。普通に片chから音を出して反対側で聴いてそこそこ聞こえる程度である。「少ないクロストーク」というのは大雑把だが、-80[dB]以下ぐらいかと思う。

クロストーク対策としてはバランス接続とアンバランス4芯ケーブルがある。前者は専用の機器を要するが、左右のGNDが完全に分離されている。後者は3極ステレオだが、プラグの共通GNDに2本の線を繋ぐものである。後者の対策でもかなり改善する。

対策した人のデータを見ると、元のクロストークが-20[dB]、アンバランス4芯で-90[dB]、バランス接続で-110[dB]である。

Sandal Audio: ゼンハイザー IE80 イヤホンの謎と、ケーブル交換の音質変化について

つまりMMCX等でリケーブル可能なイヤホンについて4芯ケーブルを導入することは理にかなっている。が、最近中国の業者がバカ高いケーブルを発売して利益をあげようとしているので注意されたい。(20ドル以下の価格が適正)

またクロストークは共通インピーダンス以外に電磁場によっても起こる(はずである)。この対策としては「ケーブルに導電塗料を塗る」というものがあるが、流石にそこまでしている人はまだいないようだ。必要かといわれれば流石に不要だろう。

DIYEASTではオーディオメーカー・販売会社各社様からのオーディオ機器のレビュー依頼(返却のない無償の商品提供を伴うもの)を受け付けております。もちろん商品提供を受けたことは明示しますし、絶賛するとも限りませんし、イヤホンの場合はレビュー後に分解してカスタムIEM化するかもしれませんが、「べつに気にしないよ」という企業様はTwitterにてご連絡いただけると幸いです。@diyeast