オーディオテクニカ ATH-SX1a の修理
2年くらい前にビビリ音が出るようになって放置状態だったATH-SX1aを修理しました。
清掃編
いきなり汚い写真を見せて申し訳ないのですが(汚いので縮小表示にした)、オリジナルの状態では写真の円形部分に接着剤が塗ってあって、イヤーパッドのウレタンと接着されていました。これは最悪です。どう最悪かというと、ウレタンが経年劣化でボロボロになり、ボロボロになって千切れたウレタンの破片が振動板に付着して動作不良(ビビリ音)が起こるわけです。その様子を外部から見ることはできないのでダイナミックドライバーの不良か何かで「壊れた」と思ってしまうわけです。うちのATH-SX1aはその後ウレタンが更にボロボロになり、イヤーパッドが脱落し、ウレタンの破片が内部に入り込んでいる様子が明らかになりました。
修理手順ですが、まずイヤーパッドを外します。このイヤーパッドは再利用不可なのでボロボロであれば切って外して構いません。すると金属板にウレタンが残るので、その部分を指でこすります。指でこすると「金属の穴」にこびりついたウレタンが外れます。このとき「耳に当てる側」を下向きにしておくと、ウレタン破片が下に落ちてくるのでそのようにします。
穴からウレタンが全て外れたら、手動ブロワーで吹いて金属板の向こう側のウレタン片を除去します。吹く角度はできるだけ振動板に対して平行方向から吹くようにします。垂直方向に吹くと振動板に加わる力が強くなるのでよろしくないということです。
ピンセットで除去することも可能ですが、先端の尖ったピンセットは絶対に使ってはいけません。万一振動板に刺さったら穴があいて終わりです。
とにかく指で「金属の穴」をこすって手動ブロワーで平行に吹きます。ブロワーを吹いても内部からウレタンが出てこなくなったら金属板を爪でこすって残った接着剤を除去します。接着剤がある程度取れたら少量のアルコールをつけた布か何かで拭きます。この際、あまり強い有機溶剤は使ってはいけません。気化した有機溶剤で振動板が破損するおそれがあるからです。(実は前に別件でやらかしたことがある)
ついでにハウジングを構成する2部品を固定する4つのネジも外して洗浄しておきます。このネジを外すとハウジング内部を見ることができますが、ハウジングの内外の部品は内部配線で繋がっているので、これに負担をかけないように慎重に外してください。ついでですから、ハウジングの内部をアルコールをつけた布で吹いて汚れを落としておきます。
私はイソプロピルアルコールと水を混ぜたもの(IPAが4、水が1ぐらい)を使いましたが、プラスチックの破損等はありませんでした。酒税の関係でIPAの方が安いですが、エタノールと同じような物質なので、エタノールを使っても特に問題はないかと思います。水を混ぜたのはアルコール100%だとすぐ気化して使いにくい、というだけですので、別に無水でも市販の消毒薬でも何でもいいでしょう。
それにしても経年劣化したウレタンの破片が振動板に当たるなどというのは最悪の設計です。金属板に直接ウレタンを貼るのではなく間に一枚布を入れるだけでこういうことは起きないわけです。業務用のタフなフレームのモニターヘッドホンとは思えない設計ミスかと思います。ウレタンというのは製造後すぐに加水分解が始まり、数年でボロボロになるわけですから、こういう設計はいけません。これを作ったのはソニーではなくオーテクですが、流石にソニータイマー的な意図で行われたわけではない……と信じたいところです。
上述のやり方でウレタン破片を除去したところ、ビビリ音がなくなったので次に進みます。よく見ると振動板に微細なウレタンがついているような気がしますが、これを除去することは残念ながら不可能でしょう。まあ音を聞いて問題がなければそれでいいわけです。
(カメラのレンズのように完全に露出しているものならば細かい刷毛で落とすこともできるが……)
私の言う「手動ブロワー」とはこの写真のようなものです。写真家がレンズの清掃に使うやつですが、これが何という名前の器具なのかよくわからないので、勝手に「手動ブロワー」と呼んでます。普通ブロワーというと大型の電動のものを指すので困ったところです。
100円ショップで買えて、当たり前だが出力が低いので便利です。口で息を吹きかけるのと違って湿気のない空気が出てくるのもいいところです。
缶式のエアダスターもありますが、パワーがありすぎるし「充填されたガス」を噴出するものなので、この作業には向かないでしょう。
イヤーパッド編
純正のイヤーパッドは3000円くらいで買えますが、いうほど高品質なものでもないので、ここは社外品を採用します。実はATH-SX1aとMDR-CD900STは互換性があって、社外品の高級イヤーパッドも使えそうです。が、とりあえずAmazonで350円のものを買いました。金属板に付着したウレタンを除去したので、イヤーパッドは後からいくらでも交換可能です。
- 買ったもの: Amazon | 【ノーブランド品】交換用イヤーパッド イヤークッション ATH-M50 M50S M20 M30 M40 ATH-SX1 黒 1ペア | ノーブランド品 | イヤーパッド
- 参考: 【やってみた】SONY MDR-CD900STに使えるイヤパッドまとめ ※非公式も含む編 - イヤホン・ヘッドホン専門店eイヤホンのブログ
- audio technica ( オーディオテクニカ ) >HP-SX1a 送料無料 | サウンドハウス
- HP-SX1aの純正パッドとも互換性があるらしい。
並べて見ると全然形状が違いますが一応使えます。左の純正品の中心部分にスポンジの剥がれた跡が見えますが、この剥がれたスポンジが金属板に接着されていたわけです。
展望
ATH-SX1aを軽く分解した限りでは、リケーブル可能なように改造しバランス化するのは簡単そうです。片出しの場合、純正のケーブルを除去してできた穴に4極のプラグを入れて配線すれば済みそうですが、後のことを考えると両出しかつケーブル自作の方が何かと都合がよさそうです。
頭頂部が当たるヘッドバンドもだいぶボロボロですが、このヘッドバンドの交換は大変です。内部配線を一度切って完全分解しないと交換できません。どうせそれをやるなら両出し改造もしたいところです。ちなみにATH-SX1aのヘッドバンドの販売はないので、交換するなら社外品か自作かのどちらかでしょう。流石にヘッドバンドの中華ノーブランド製品はないようです。
あと、完全分解の方法もよくわかりませんが、本体の構造がMDR-CD900STと似ているようなので、MDR-CD900STの分解方法を参照しながらやれば出来そうです。
実はMDR-CD900STもヘッドバンドだけを取り寄せることができませんが、MDR-7506ならばヘッドバンドだけ取り寄せられるので、もし交換するならこれを使うことになりそうです。ATH-SX1aと互換性があるかどうかは不明です。
- Amazon | ヘッドフォン用イヤーパッド+ ヘッドバンドSONY MDR-7506, MDR-V6, MDR-CD900ST等対応交換用 イヤークッション (ブラック) セット | Geekria | イヤーパッド
- このように「ヘッドバンドの上から被せるカバー」なるものを使えば、安価・手軽にヘッドバンドのボロボロ対策ができますが、非常にカッコ悪いです。
- 【DIY】ATH-M50のヘッドバンドに本革を張る - 汚れつちまつたメイクアップアーチスト
- オーテクの別のヘッドホンであれば、このように分解せずともヘッドバンドだけ張り替えられたんですが、やれやれです。
音について
買ってから数年間のウレタンがボロボロになる前の期間は高域の刺さりというのは一度も感じたことがなかったですが、修理直後はかなり高域が刺さるようになって「やはりダメか」と思いました。しかし、数時間鳴らしたまま放置したところだいぶ改善し、現在は普通に使える程度の音が出ています。「数年使った後、2年位音を出してない状態でいきなり音を出すと変な音が出て、数時間鳴らすと改善した」という話はまあ何というか、エージング関係の議論に多少は役立つ事実かと思うので、一応書いておきます。
純正と違って音の通り道にウレタンがないので、高域の量は増えたはずです。先日レビューしたZero Audio CARBO-iに比べるとやや暗い音です。音の分離はヘッドホンであるこちらの方が上です。モニターにしてはかなり聴きやすい部類かと思います。
低音は普通です。特にカッチリした感じはないです。ハウジング内の反響が結構ありそうな気がするので、いずれ吸音材を追加する等の加工をするかもしれません。側圧は強く装着感はあまりよくないです。というか、今現在まさに耳が痛いです。
長々書いておいてなんですが、たまたま自宅に眠っていたから修理しただけで、今更買ったり取り上げたりするヘッドホンでもないです。単なる私の思い出話のようなものです。
その他の製品の話
ところで、 AKG K271MKII はケーブル交換可能、イヤーパッドも簡単に交換可能で装着感もよくお値段1万円なので、今からリスニング用途で密閉型モニターヘッドホンを買うならこちらがおすすめです。まあ、サウンドハウスのレビューには「フレームが折れる不具合」が書かれていたりしますが。(ATH-SX1aはフレームだけは頑丈です)
beyerdynamic DT 1990 PROは良さげです。私が追いかけているハードコアテクノ系のトラックメーカー(M-Project氏)もベイヤーの旧モデルからDT1990PROに買い替えたそうな。値段も5万円で、高級ヘッドホンの中では安い部類です。
ところで、打ち込み系を聴くならモニターヘッドホンが一番だという持論をだいぶ前から持っているのですがどうなのでしょうか。「打ち込み系には低域が多いイヤホン・ヘッドホンがいい」という人もいますが、中華系の1DDの低域マシマシイヤホンで低域の誇張された打ち込み系ソースを聴くと低域が多すぎて低域が低域で低域なので何が何やらわけがわかりません。実際トラックメーカー自身もモニターヘッドホンで作曲しているわけですし、まあモニター系のもので聴くのがよさげな気はします。
(そもそも私のいう「打ち込み系」はハードコアテクノ系のことであり、彼らのいう「打ち込み系」はEDM系だったりするわけですが、脱線しすぎなので割愛します)
おまけ
- M-Project - Mix @ Polyphonix Countdown 2018 - 2019 ***Free DL by M-Project - Lethal Theory | Free Listening on SoundCloud
- Mahler: Symphony No.4 in G major - Muti / Wiener Philharmoniker - YouTube
- Franz Liszt - A Faust Symphony S. 108 - YouTube
以前、クラッシック音楽のレコードを4000枚位持っているオーディオマニアの自宅に行ったことがあるのですが、面白かったのは、普通はクラッシックファンで通っているこの御仁も、家で普段聴くのは演歌や、意外と子供が聴く浜崎あゆみを気に入って、しょっちゅうかけていると、奥さんが面白おかしく話していました。まあ、クラッシック音楽も好きなのでしょうけど、浜崎あゆみを結構気に入って、子供以上に熱心に聴いているというのが、私にはとても微笑ましく思えたのでした。別に、浜崎あゆみの音楽がダメって言っている訳ではなくて、この方がオーディオマニアの集いなどでは、恐らく間違っても、浜崎あゆみを最近熱心に聴いている等とは言わないだろうなと思うと、オーディオっていう趣味の奥深さを思うのです。
と、いうわけで、オーディオ系のブログですが、クラシック以外の音楽も載せたわけです。